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2009年8月29日〜9月27日 ■主催:砂丘館(新潟絵屋・新潟ビルサービス特定共同企業体)


砂丘館を個人コレクションで飾る2
 モノクロームな小宇宙 田中重夫木口木版コレクション
    ――柄澤 齊を中心に
 

田中重夫(たなか しげお)
1955年燕市生まれ。燕市在住。20代の頃から 木口木版を中心に版画作品の収集を続ける。

ギャラリートーク
●2009年9月5日
●ギャラリートーク
 「木口木版の魅力」
●田中重夫/聞き手:大倉宏

 


 
精緻な表現で想念をえぐる

谷 哲夫(学芸員)

 
 田中重夫さん愛蔵の版画の中から、柄沢斉の作品を中心とした木口木版約50点が公開されている。
 柄沢は、日本で木口木版を表現分野として確立した日和崎尊夫(1941〜1992年)に学び、早逝した師が開いた道を堅固なものとした逸材である。また、その文学への傾倒と共鳴は、安吾研究でも知られるフランス文学者出口裕弘との初期の詩画集「迷宮の潭(ふち)」共作ですでに示され、近年では長編ミステリー「ロンド」の自著もある。柄沢の多才な顔は、他に詩人、オブジェ作家、哲学者、音楽通、食通、酒通と挙げられるが、やはり木口木版の最高峰とするのがふさわしい。
 さて木口木版は、ツゲやツバキなど硬質な木を輪切りにし版木とする。日和崎は故郷土佐のツバキを好んだが、柄沢はおおむねツゲを用いている。寄せ木や、他の素材を合成樹脂で被覆し、より大型の版とすることもあるが、限られた版面による精緻な表現こそ、この技法の真骨頂である。鋭い刀が、柄沢の練り上げた想念をえぐり出す。傑作の一つ肖像連作は、バッハからグレン・グルードといった音楽家、ランボー=写真=、プルーストなどの文学者、ミケランジェロをはじめとする美術家まで、古今東西の芸術家たちの創造の本質に肉薄する。「死と変容」シリーズの扉絵に柄沢はこう刻んだ。「すべてを一つの夜が待つ 死を想え」と。
 収集とは、生ある限りの、美に対する執着。できれば大型のルーペを懐に忍ばせて、田中さんの価値観もゆっくり味わいたい。

2009年9月 新潟日報 掲載


柄澤 齊(からさわ ひとし)
 「大好きなものはと問われれば、印刷物と応えるようにしている。」と書いた作家の作品の多くは、版画集や連作だったりしている。今回は、〈肖像〉・〈死と変容〉シリーズが中心の展示になっている。手に取って見ること、読むことが基本と考える版画集が展示できないことが残念だ。
 DMに使用したランボーは上が鳥、下が波で表現されている。何度見ても、見入ってしまい、詩人としてのイメージにかなう。肖像シリーズは「自分の好きな人たちのブロマイドを作っているようなものです。」といい、まるほどと思う。それらの中でも良く展示するのが「J・S・バッハ」と「グレン・グルード」。聞くCDはグルードのピアノで「ゴールドベルク」ではなく、今回は「平均律クラヴィーア曲集」ではいかがだろうか。
 木口木版は、もともと数百、数千部の印刷が可能である。多くの木口木版が数十部程度の版画エディション制(限定制作)であることに柄澤さんは懐疑を持ち、自宅に「梓丁室(していしつ)」という出版工房を現在主宰している。1997年以後、単品作品は漢字で、エディション表記になっている。注目してほしいことでもある。(田中重夫)

日和崎 尊夫(ひわさき たかお)
 木口木版の先駆者であり、独学で技法を学び、触発された作家も多い。酒にまつわる無頼のエピソードとともに、木口木版の小宇宙の世界、詩人としての顔も持つ。1992年に50才という若さで亡くなっている。
 作品を見る機会が少なく、柄澤作品に集中していた頃なので、所有する作品は多くない。それも小品が中心で、代表作のKALPA(カルパ)はわずか1点のみではしかたがない。木口木版の作家達の同人誌「鑿」の全5巻の中の版画で楽しんでいる。(田中重夫)

宮崎 敬介(みやざき けいすけ)
 1997年、突然、目の前にこの木口木版作家の作品があらわれた。早々に画廊に連絡を入れ、出品作品を掲載したパンフレットを送ってもらった。それまで木口木版の作家は数年に1人、新人が出る程度で、これはという作家には、なかなか巡り合わなかった。いきなりの大当たりの気分で作品を購入した。なによりも技術の確かさで、細かい彫り、シャープな線、思わず何本あるかと数えたこともある。もっとも線の細かさではなく、線を使った表現力なのだが、19世紀の木口木版・ビュラン職人にもせまる技術・技巧の作家だ。
 初期作品には、キャラクターといい、コマ割の様な分割による画面構成や、どことなくアニメチックな感じを受け、高名なアニメ作家を父親に持つ遺伝子の技なのだろうか。願わくば、詩画集や版画集、挿画本も考えてもらえれば、ありがたい。(田中重夫)


砂丘館(旧日本銀行新潟支店長役宅)
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