問い、きざみ、考えた
榎本栄子遺作展
日時:2026年7月28日(火)~9月6日(日)
11年前の夏、砂丘館で榎本栄子彫刻展を開催した。魂にしみいるような展覧会だった。
木の、紙のきざみの一刻一刻のふるえが、ふるえに重なり、複雑で深い複合和音のような波動が空間に広がっていた。それを全身で感じとろうとして、幾度も会場に身を置いた。
榎本はこの展示を気に入り、手紙のやりとりで、また展示をしたいと気持ちを伝えてきた。けれどその後お会いすることなく、一年前、思いがけない逝去の知らせを受け取った。100歳を超えた母が世を去ってほどなくの死だったという。
山梨県北杜市の古い民家の内部をそのまま仕事場にしていた。今春、久しぶりに訪れ、懐かしい作品、未知の作品を見た。紙を素材にした作品には変形を生じたものもあり、いくつかは作家自身の指示なしで組み立てることが難しそうでもあった。
前回の展示では、当時話題になっていた従軍慰安婦像にふれた幾分長い文を作家は送ってきた。案内状にそのまま掲載した。その言葉から「人体」を学び、造形することについて、命をかけて考え、試み、生きてきた「彫刻家」の人生の時の厚みを感じた。あの波動は、その厚みの底から響いていた。
仕事場に残された書類のなかに「芸術私論-人間を人体の視点で」と題されたものがあった。幾度も書き直されたらしいその原稿に「ものが物をこえて生命となり知覚を獲得し人格を確立するドラマの全文である」人体についての、根源的な問いと長年の思考が要約されていた。つくることはその「全文」の意を問い、素材と向き合い、「私」の答えを「集中的に」一つひとつ刻んでいくことであった。「人体は感動体です」という一文が心に刺さる。
あらたにめぐってきた真夏の砂丘館に、この不在の彫刻家の、問いと、応えと、感動が刻み込まれたものたちを置き、ひらいてみたい。
大倉宏(砂丘館館長)
「アントニオ・ガデス―スペインのボンド(奥深いもの)を演ずる―」2013年 桧 35.0×24.0×40.0cm
「空間対位法 20世紀・悲・羽音」1995~2013年 チーク、画紙で色付け彩色 100.0×100.0×100.0cm
「
「寒撥―竹山に思う」2007年~ 松 30.0×24.0×55.0cm
「潮路を聞く」2001年 松 30.0✕24.0×40.0cm
榎本栄子の彫刻作品は9/20(日)~11/8(日)フィリア美術館(山梨県北杜市小淵沢町上笹尾3476-76)でも展示されます。




