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アンティエ・グメルス
(Antje Gummels)
1962年旧西ドイツ、レ−ゲンスブルグ生まれ。78年イタリア、サンレモへ移住し各国アーティストと交流。87年に来日し新潟県巻町(現新潟市)に住む。麻布工芸美術館(東京、92年)、創庫美術館(新潟、92、94年)、北方文化博物館(新潟、96年)ストライプハウス美術館(東京、98年)、新潟絵屋(01年、05年)、アートフロントギャラリー(東京、05年)、画廊Full Moon(新潟、05年)などで個展。絵本の仕事も多く手掛けている。 |
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同時期開催 |
アンティエ・グメルス展2005
2005年12月12日〜2006年1月15日
新潟絵屋 |
「LOOKING INSIDE」水彩、紙
23.8×16.6cm 2005年
ギャラリートーク |
●2005年12月18日 ●アンティエ・グメルス・大倉宏 |
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「夢 誘惑と欲望の間」
ワックスクレヨン、テンペラ、紙 20×26cm 1988
広大で幻想的な“無風世界”
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大倉宏(美術評論家) |
新潟市の2会場でアンティエ・グメルスの個展が開かれている。
砂丘館では画家が新潟市(巻)に住み絵を描きだした1988年から今年までの作品が、新潟絵屋では近作が展示される。
彼女の「シュルレアリスム」にはおとぎ話に似た香りがあり、見る者をなごやかな身ぶりで招き入れる。けれど中で起こっていることはきわめて不可思議。時に苛酷にさえ見える。
例えば「夢 誘惑と欲望の間」=写真=という絵では、裸の男の頭から生え出した蔓の先端が、下半身を輝く月とともに丘の上へと「誘惑」するが、もう一本は男の体に巻き付き、人の体をした犬の首輪につながる。犬が男を引き戻そうとする家の中は、火に包まれている。前にも後ろにもいけない場所を歩く男の姿には、うつろさと、ほっそりした艶かしさがある。
うつろさは、状況から現実の「生々しさ」が抜かれてあること。艶かしさはそのことで、板挟みの状況を諦観と興味をもって眺める視線の作用を語る。微妙に相反するものを束ねた目の力に吹かれて、ファンタジックな無風世界は、精妙複雑な翼をめくるめくように翻す。
描く=見るという孤独な作業台上で、時にねじれ、暴力的な現実さえそっくり鏡の器に受け止めようとする意志の純粋さが、透明な青の輝きとなって、見る者の目をやわらかい冷たさで満たす。
この広大な無風世界に、風が吹きはじめた。最近の注目すべき地殻変動を、新潟絵屋では小石絵や卵絵とともに飾られた水彩、ミクストメディアの絵に目撃することができる。
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