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2006年7月6日〜26日 ■主催:砂丘館(新潟絵屋・新潟ビルサービス特定共同企業体)


木下晋絵本原画展『ハルばあちゃんの手』
 

木下 晋(きのした すすむ)
1947年富山市生まれ。63年自由美術家協会展(東京都美術館)、83年現代のリアリズム展(埼玉県立近代美術館)、94年個展(KEENギャラリー、ニューヨーク)、97年個展(池田20世紀美術館、静岡)、2004年「六本木クロッシング展」(森美術館)。ほか69年以降各地で数多くの個展を開く。現在東京大学工学部、武蔵野美術大学、新潟薬科大学講師。著書に『生の深い淵から』(里文出版)。
ギャラリートークと朗読
「幸福のイメージ」
●2006年7月16日
●トーク:木下晋
     大倉宏(砂丘館館長)
●朗読:高橋景子
    (劇団第二黎明期)

同時期開催
木下晋展
●2006年7月12日〜20日
●新潟絵屋

 
生の凄み描き出す鉛筆画

荒井直美(新潟市新津美術館学芸員)

 
 昨年の春、木下晋はまた一人のモデルをみとった。その人の名は小林ハル。鉛筆による制作に取り組む1980年代初めから木下は彼女を描いてきた。瞽女として生きた、目の見えない彼女の言葉に「色」を感じた画家は鉛筆画という己のスタイルに確信を得たのだった。
 木下の描く人物は匿名の存在ではない。著名な評論家を描いても、ニューヨークで出会ったホームレスの人物を描いても、その人間の重みはいささかも変わらない。小林ハルを描いたときでさえ、画家は彼女が瞽女であったから描いたのではなく、「小林ハル」だったから描いたと言うだろう。制作はいつもモデル本人からその人生を聞き出すことから始まる。木下が描こうとするのは、その人の生の“凄み”のようなものであって、モデルは美醜を超越し、画家の鉛筆は皺1本に至るまでその表面をなぞりながらも、けっしてその外見にとどまることはない。
 だから彼は、絵本の登場人物を描くにも具体的なモデルを必要とした。取材のために訪れた富山の漁村で、その人とは偶然に出会ったという。一人の女性の生涯をたどった絵本『ハルばあちゃんの手』はこうして生まれた。モデルの顔に刻まれた深い皺に、画家はその人の人生の襞を見る。9Hから9Bにわたる20の階調を持つ鉛筆は、その明暗を描き出すのにもっとも適した画材だったのだ。

2006年7月13日 新潟日報 掲載



ハルばあちゃんの手

山中恒/文 
木下晋/絵

出版社名 福音館書店
出版年月 2005年6月
税込価格 1,575円


砂丘館(旧日本銀行新潟支店長役宅)
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