ガイド地図利用案内 ギャラリー催し

 

2007年2月9日〜3月18日 ■主催:砂丘館(新潟絵屋・新潟ビルサービス特定共同企業体)


栗田 宏 展
 

栗田 宏(くりた ひろし)
1952年白根市生まれ。白根市役所に勤務し、在職中より絵を描き始める。後、退職し絵に専念。「生成」「気」「密」などのテーマで制作を続ける。84・85年現代画廊、2000・02年新潟絵屋、04・05年画廊Full Moonで個展。ほか新発田、豊栄、新潟、名古屋、山口などで個展。89年「新潟の絵画100年展」(新潟市美術館)、2000年「見えない境界 変貌するアジアの美術 光州ビエンナー レ2000<アジアセクション>日本巡回新潟展」(新潟県民ギャラリー)、04年「新潟の美術100人」、06年新潟の作家100人展(県立万代島美術館)に参加。
ギャラリートーク
「線、その奥に在る意識」
●2007年2月18日
●トーク:栗田宏
     大倉宏(砂丘館館長)

同時期開催
栗田宏展
●2007年2月16日〜25日
●画廊Full Moon


栗田 宏
発行日 2007年2月9日
発 行 画廊Full Moon
編 集 大倉宏・越野泉


 
栗田宏展に寄せて

静かな熱が魂揺する


大倉宏(美術評論家)

 
 栗田宏の絵には、見る者の魂に届く、静かな熱力がある。
 そう気付いたのは20年前。栗田の絵を高く評価した美術評論家洲之内徹の、東京での葬儀の帰途、、栗田と同じ新幹線に乗り合わせ、車中で彼が持参していた素描を見せられた時だった。
 洲之内徹の急逝は、親しくさせていただいた私にも衝撃だった。茫然自失する心の襞に、その絵の細かな鉛筆の線が、思いがけないほど深く流れ込み、魂を揺すられるように感じた。
 絵を評する時に使う言葉のたぐいは一切意識から消え、ただ絵の静かな熱に暖められた。
 ほどなくして、新潟の栗田の画室を訪ねる機会があった。「密」と題された、赤鉛筆での、大きな作品をそこで見た。強い打点とその余韻でできたような微細な線の集積に目を近づけると、またしても静かな熱が、波動となって心を包んだ。実際に頬が、体が火照ってきた。
 なぜこうなるのか。この感触はどこか、同じ新潟の画家佐藤哲三(1910―54)の絵のそれに似ている。佐藤の晩年の絵では風景も静物も、描かれたモチーフやイメージを乗り越え、湿り気と粘りのある鉛筆のタッチ自体が、心の深部を揺さぶる。佐藤の絵のエッセンスを純化し、さらに深みへ熱を沈めていくと、栗田の画面になるのではないか。どちらの絵にも、人が自然―大きく揺れる空気や水、光―との接触感を呼び覚ます力がある。
 佐藤と栗田に、蒲原(県北部)の画家の系譜を見るのは私の主観で、栗田自身は20代のころ、ジャコメッティやグリューネヴァルトの絵で、自分の描く方向性を掴んだという。しかしその後佐藤の絵を知り、強い共感を抱いたともいう。
 「密」連作を描き終えてまもなく、栗田は描くことから一時遠ざかる。あまりに凝縮した仕事の先が、見えなくなったのだろうか。この時期の彼は古い須恵器に引かれ、小さな窯を築き、焼きものの制作を試みる。皿やぐい呑みに似て、実用の器とは異なりひたすら自然物の触感に近づこうとした不思議な立体が生まれる。
 2000年代に再び絵の制作を開始。白い地に白いタッチを置く印象的な連作が現れる。何もない広がりの、内なる波動を誘い込もうとする筆のしぐさが印象的だ。絵筆(または鉛筆)を通して身体が画布に触れる瞬間、イメージや言葉では近づけない何かが、実体として感じられる。その気配に似たものへ向けられる画家の目は、繊細さとやわらかさを増している。
 二十余年の作品を回顧する砂丘館、近作を中心に構成される画廊Full Moon。感じることだけの上に、絵を立たせようとする―その意味では、本質的にラジカルなこの画家の軌跡と現在に触れる。貴重な機会が開かれる。

2007年2月6日 新潟日報 掲載



砂丘館(旧日本銀行新潟支店長役宅)
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