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2008年11月11日〜12月7日 ■主催:砂丘館(新潟絵屋・新潟ビルサービス特定共同企業体)


小林春規木版画展 新潟下町を描く
 

小林春規(こばやし はるき)
1953年新潟県阿賀野市(旧水原町)生まれ。幼時より木版画を始める。18才で初の個展後、京都の表具師の内弟子となり、表具の仕事を続けながら版画制作を続ける。90年笹神村(現阿賀野市)に転居。70年より日本アンデパンダン展、平和美術展に出品。ほか個展、グループ展多数。2000年、02年に新潟絵屋で新潟下町の連作を発表。新潟市では現在毎年秋に画廊Full Moonで新作を発表している。

ギャラリートーク
●2008年11月16日
●ギャラリートーク
 「新潟下町の魅力を語る」
●小林春規/聞き手:大倉宏

同時期開催
小林春規新作木版画展
●2008年11月14日〜23日
●画廊Full Moon

 

新潟下町(しもまち)
とは?
 新潟は信濃川の河口に作られた港町です。
 町の川上側のはずれに町の総鎮守である白山神社を置き、湾曲する川岸に平行に今の古町と本町の二つの通りと、それらを挟む西堀、東堀(今の西堀通と東堀通)の二つの堀が作られました。
 白山神社に近い側を上(かみ)、遠い側を(下)と呼ぶならわしは古くからあったと思われますが、下町(しもまち)という言葉が使われるようになったのは比較的最近のことと思われます。下町が正確にどのあたりを差すのかは今もはっきりしませんが、もっとも広い解釈は柾谷小路から下の一帯というものです。下町には明治以後の大火にも焼けずに残った地域が多く、萬代橋より下に長く橋が架けられず開発圧力が弱かったこともあり、町屋などの古い建物が今も多く残っていることが明らかになり、近年注目され始めています。
 古くは漁師町があり、川下の堀から近隣の農作物は舟で運ばれ市がたったことなどから、下町には庶民の町という雰囲気が漂います。下町の過半は川の中州が寄り付いて陸となったところですが、江戸期からの町である上大川前通、本町通、また明治初期に新しく建てられた税関へ通じる道として開発された湊町通周辺には特に古い家並みが多く残り、港町として活気のあった時代が偲ばれます。

 
小林春規木版画
  「新潟下町界隈」再公開に寄せて

見詰め直す「景観」

大倉宏(美術評論家)

 

 人は同じ場所に長く暮らしていると、そこがよく見えなくなる。
 見慣れるとは、反復して見ることで、記憶の中で固定されるイメージのフィルターを通して見るようになることである。生活環境を「景観」として見る難しさがそこにある。景観とは快・不快、美・醜などの感情とともに見られる環境のことだが、フィルターはその感情の振幅を鈍麻させる。
 景観、あるいは風景を描いた優れた絵に接することで、その感情が生き生きと甦ることがある。
 小林春規の「新潟下町界隈」は2000年に新潟絵屋で発表された木版画の連作で、同年に絵屋がオープンした時、私から制作をお願いした。小林が応えてくれたのは、自身が新潟下町に引かれる何かを感じていたからだろう。当時下町はまだあまり注目されていなかったが、その後新潟大学による調査で、大都市の中心部に近い地域でありながら、古い建物(歴史的建築物)や町並み、地割りの残る珍しい一帯であることが明らかになる。
 私自身下町に引かれ、同好の仲間たちと画廊をそこに開くことになったのだが、土地になじむとともに、早くも目にフィルターがはまりだしていることも感じていた。小林の取材は、当時絵屋のあった並木町や、住吉町、広小路周辺から、本町通、上大川前通10〜13番町、湊町などに及び、2002年の二度目の発表を含め計30点の作品となった。
 それらを見ると、フィルターが揺すられ、下町にわくわくするものを感じたころの気持ちが甦る。
 阿賀野市(旧水原町)生まれで、現在も同市に住む小林には、若き日を過ごした京都の町を描いた作品もあるが、町家の残る同じ古い町を描いても、違いがあるのが面白い。例えば「蒲鉾屋」と題された絵の、町家の工場の煙突から流れ出す煙の表情。そこに流れる気配を「荒涼」と評したことがある。荒ぶる水、風、砂の害に苛まれ続けてきた都市と、そこに暮らす人々の、自然へのアンビバレントな感情の陰影がにじんでいるのを感じるのだ。
 丁字造りと呼ばれる独特の町家、路地、古い店舗、倉庫、工場…見慣れることは、けれどまったく感じなくなることではない。意識は鈍麻しつつも、その底で人は何かを持続的に感じ続ける。その何かをも含めて、小林の絵は見慣れた者の目に下町の「景観」を、見る者自身の感情の中に立ち上がらせる力を持つ。同時にこれらは新潟下町を知らない人々の心をも、この場所に引きつけるだろう。
 描かれた風景には、その後巨大な道路造成が行われ、失われたり姿が変わったものもある。五十年後、百年後はどうだろう。日本の都市部の古い町並みは絶えず損壊の圧力にさらされてきた。その圧力に耐え、残されてきたこの情熱ある町への共感と、それが失われていくことへの危機感が、絵を見る人々の中に(とりわけ住む人々の中に)幾分なりと生まれてくれればよいのだがと念じつつ、シリーズ全作を作者の言葉とともに再公開する。

2008年11月14日 新潟日報 掲載


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