魔力というべきか。洋の東西は問わず、時代を超えて、それはあまたの創作者たちの心を虜にしてきた。流行り廃りはあれども決して失せることなく、どこかの誰かに取り付いては脈々と生き続けてきた。それが「写実」である。そんな魔力に取り付かれた一人が橋本さんだろう。
自身の住む寺泊(長岡市)の海辺をはじめ、田園や森林など新潟の身近な風景を題材に、時に全く異質な光と気候を持つ沖縄を描いてきたこの画家は、その自然を大小異なる四角い画面に確かな手技で克明入念に描き出してきた。そこで変わらず選択してきた手法が写実だった。なぜか? 本人に問わねば分からぬが、おそらくは写実という実体なき存在の魅力なのだろう。
写実とは、じつにとらえ難いものである。「事物の実際のままを絵や文章にうつすこと」といった辞書的な意味ほどには単純でない。網膜に映じる像をなるべく正確に再現しようとするだけならば、物の上っ面だけをすくい取るようなものである。なぜこれほどに写実を基にした創作物が歴史に残り、人々の記憶の中に受け継がれてきたのか。写実とは、創作者たちの独自の解釈による表現であり、見る者はそこに強く魅せられてきたのではあるまいか。
さて、今回は画廊フル・ムーン(新潟市)でも橋本さんの絵世界が同時期に展開されるが、この寡黙ともいうべき写実派はどこまで見る者を引き付けられるのか。「写実という夢」という意味深長なタイトルとともに確かめねばならない。