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2010年1月22日〜3月14日 ■主催:砂丘館(新潟絵屋・新潟ビルサービス特定共同企業体)


ハイカラ古裂(こぎれ)
明治―昭和初期の衣装にみる〈民〉のデザイン ― 笹川太郎コレクションから
 

 
裏地に隠された戦争の記憶
大倉宏(美術評論家)

 

 
 羽織の裏地。着物の下着である長襦袢。着れば見えないが、一部しか見えないところにおしゃれをする、人を驚かす柄を隠しこむ。そんな不思議な習慣が日本人にはあった。建前として奢侈を戒めた近世の武家支配下の時代に生まれたものという。
 近代になるとその羽織裏に飛行機が飛び、大震災の時刻を時計が語る、という具合に時代の出来事や事件が描かれる。羽織を脱ぐとき目にした人が驚き、そこから時事的な話題が盛り上がったのか。
 襦袢にも電話や漫画や自動車、はたまた戦車や軍艦まで登場して、時にそれらが奇抜な文様を織りなし表着の底にひそみ、驚き、笑い、感嘆を誘い出す思いがけない一瞬を待った。
 「ハイカラ古裂」「おもしろ柄」などの名で呼ばれる、こうした裏のデザインは、裏だからこそ大胆奇抜にもなり、まるでシュールレアリスムの絵画を見る気分に誘う。戦争柄はやがて男の子の宮参りの衣装など表着の空間にも進出して、軍国主義の気分高揚にも一役買い、戦後は忌まわしい記憶の一部として忘れられた。
 数年前アメリカで「衣装のプロパガンダ」という日米英の戦争柄のテキスタイルデザインを紹介する展覧会があった。戦争柄は日本に限らないが、カタログを見ると日本の着物が、なぜか群を抜いて派手で、ヘンテコである。戦争プロパガンダ(宣伝)というまじめな使命を一線も二線も踏み超えてしまっているのが多いのは、ルーツがプロパガンダとは違うものにあったからではないかと思わせる。
 この忘れられた「民のデザイン」を概観する貴重なコレクションが紹介されている。ここに見るまぎれもない近代日本人の一つのユニークな鏡像を、種々の問題も投げかける戦争柄の着物を含め、素直な驚きとともに、虚心にまずは見つめてみたい。

2010年2月6日 新潟日報 掲載






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