6年前、蓮池ももという若い人の絵を見せてもらった。新潟に生まれ、新潟で、誰に教わることもなく、1人で描いてきたという。
小さい紙に雪原を上っていく、遊牧民の家に体を寄せる少女の姿などが描かれる水彩画だった。挿絵風であったが、夢見がちな少女の絵らしい気配と、そこからはみ出すものの手触りが、弱いけれど繊細な線に見えた。絵に寄せる静かな決意のようなものが感じられた。薄明の空に浮かぶ小さい星を見た気がした。青と赤が印象に残った。
それからほぼ毎年、新潟の画廊Full Moonで発表を続けた。1人だった絵の少女は、時に道連れを得、共に踊り、谷を下り、獣めいたものたちに会い、崖を登った。ペンの線は感じやすい細さを失わないまま、深まり、血をめぐらせて、髪は綱のように強く結われた。「絵という実人生」を生きていく心の変容が、こうして絵にじかに刻まれるのを、驚きとともに見てきた。
昨年の個展では画面に人が消え、厚紙をするどく爪で掻いたような「ほろびののち」というシリーズに続き、根を引き抜いて歩く木が現れた。イメージの深さ、荒々しさ。それを表現しようとして、違う描き方を求める大胆と勇気。
この春、東京で新潟の3人の作家を紹介する企画展が開かれたが、そこでも彼女の絵の独自性と才能に注目する声が多かった。小さな星は今年29歳。今では星とは言えない大きさの、1人のアーティストになり、空をめぐりだした。最近の絵に現れた、鉛筆による思いがけない母子像の連作に、さらに新しい胎動を感じる。
6月の新潟は二つの会場で、砂丘館ではこれまでの、そして新潟絵屋では今の、注目のこの画家を紹介している。