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自然美を表現する「気勢」の手法が用いられた旧日銀支店長役宅庭園。樹木の方向や傾きで勢いを示す造形の技術で、雑木庭でよく用いられます。
 

部屋ごとに景色が変化

土沼隆雄(造園家)
 

 旧日銀支店長役宅庭園(現・砂丘館)は、西堀前通六番町にあった役宅が柾谷小路の拡張に伴い、1933(昭和8)年に当地に移転した際に、樹木、庭石など庭園材料の一切が移設されて造られました。
 設計は日銀の技師、施工は地元庭師が行いました。平坦な敷地をそのまま利用して水平な広がりを強調し、見る人の神経を細部にまで集中させる工夫は巧みです。
 部屋は大小合わせて五カ所あり、場所ごとに趣の違いがはっきりしていることも特筆すべき点でしょう。邸宅の顔である前庭は、玄関の風格や映りに注意を払い、正面に堂々としたサルスベリが植栽されています。
 主庭はいくつかの景色を横長に繋いだ露地風庭。背の高いクスやシイノキなどで敷地全体を囲い込み、視線を奥に引き込もうと、庭園の軸線である飛び石の右左に近景、中景、遠景など見るポイントをバランスよく配置しています。
 主景木の黒松を中心に捉えて、その足元にツツジ類を配する新潟の平庭スタイルも見られますが、黒松を一定方向に傾けて幹反りを合わせ、気勢を強く意識して変化の中に統一感を出しています。
 これは空間に造形的な美を感じさせようとするもので、作庭当時、新潟にはなかった珍しい手法です。
 奥庭は家族で過ごすための多目的な利用ができる芝生庭(現在は駐車場)、中庭は鑑賞本位の黒松の庭で、残る一つは生活のための勝手庭です。
 部屋によって見える景色に変化もつけています。応接室からは落葉樹と常緑樹の二景、書斎からは黒松や梅など常落混交の景、控室(茶室)からはつくばいと飛び石の露地の景、奥座敷からは奥行きのある広々とした全景、そして、茶の間からは見通しの黒松の景が楽しめます。
 このように部屋の利用と庭園の景色が連動した作庭に、近代的庭園設計の極めて質の高い構成技術と、庭園を見つめる洒脱で鋭い美意識を感じることができます。
             (庭園を読む 美のカタチ〈6〉 2008年5月13日 新潟日報に掲載)








砂丘館(旧日本銀行新潟支店長役宅)
〒951-8104 新潟市中央区西大畑町5218-1
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