ガイド地図利用案内 ギャラリー催し

 

2009年7月22日〜8月23日 ■主催:砂丘館(新潟絵屋・新潟ビルサービス特定共同企業体)


砂丘館を個人コレクションで飾る1 山下 透コレクション
 

山下 透(やました とおる)
1944年生まれ。大手損害保険会社に入社後、本社部長職を最後にリタイア。現在は損保システムコンサルタント。本業のかたわらジョルジュ・ルオーとの出会いをきっかけに始まった絵画コレクション歴は30年を超える。その経験を踏まえて2002年に「アートNPO推進ネットワーク」を立ち上げ市民派アートコレクターの立場で、さまざまな活動を展開する。

ギャラリートーク
●2009年7月25日
●ギャラリートーク
 「私のコレクション哲学」
●山下透/聞き手:大倉宏

 

三浦逸雄「歩く人」

  

ジョルジュ・ルオー
「流れる星のサーカス“ピエロ”」

 

展示に併せて作成されたリーフレット

 
「知的で深い精神性を感じさせる絵」
            に惹かれる

大倉宏(美術評論家・砂丘館館長)

 
 市民派コレクターという言葉を耳にしたのは数年前のこと。
 官庁や企業に勤めつつ銀座の「画廊めぐり」を趣味とするようになり、絵をポケットマネーで求め続けるうちコレクションと言っていい量の美術品を所有するようになった人々のことである。バブル時代的な「投機」でなく、あくまで「心の楽しみ」に買うので、画家の有名無名にこだわらない。その無名画家がやがて評価されるとわがことのように喜ぶ。
 そんな市民派コレクターの民間組織が生まれたのは7年前。中心となったのが山下透氏だった。「アートNPO推進ネットワーク」という組織の活動で特にユニークだったのは、メンバーが共通して支持する(文字通り「買って」いる)、しかし十分には知られていない画家の絵を、各自が持ち寄り開催した「ぼくらの○○○展」シリーズである。これは買い手側からいい(=質の高い)ものを評価するという、他分野では消費者運動という形などで展開されてきたものの美術バージョンとして、画期的意味を持っていたと思う。
 活動は諸般の事情で5年で縮小されることになるが、その軌跡は「アート市民たち」という冊子に残された。数ヶ月前、久しぶりに東京でお会いした氏の顔は少年のように生き生きしていた。長年勤めた大手損害保険会社を退職され、経営コンサルタント業を続ける傍ら、コレクションを飾る自室を美術サロンとし、専門家を招いて絵の話を仲間たちと聞くなどして楽しんでいるとのこと。

 前記の冊子で氏は「概ね順調で満足できる会社人生」だったが「仕事だけでは満たされない渇望感のようなものが常にあり、もう一つの自分の世界を築き上げたい願望を心の隅に感じていた」と書いている。ある日美術館で出会ったルオーの絵に打たれて、そのコレクションは始まり、その過程で「表面的な美しさより、知的で深い精神性を感じさせる絵」に惹かれる自分に気づいていく。絵を買うことは「本当の自分」や「人間、人生」について深く思いめぐらすことにつながっていった。会社人生と平行して続いたもう一つの体験が、退職後の氏の日々を今輝かせていることを、打ち合わせをしながら伝わってくる心の活気から私は強く感じた。
 砂丘館で開かれるコレクション展は氏の蒐集品から昭和初期の住宅という会場に合わせ、氏自身が選んだ絵画40点を、氏の言葉とともに紹介する。全体としてもの静かな気配を漂わす絵を鑑賞しながら、絵を「見る」ことの意味、「見て、買う」ことで人生を豊かにし、またよい作家たちを支えることの意味についても思いめぐらす機会にしていただければと願う。

2009年7月22日 新潟日報 掲載


砂丘館(旧日本銀行新潟支店長役宅)
〒951-8104 新潟市西大畑町5218-1
TEL & FAX 025-222-2676