足立照久 曲輪の球体展
日時:2021年11月9日(火)~23日(火・祝)【終了しました】
曲物への旅 大倉宏 足立照久さんとの付き合いはもう何年になるだろう。 仕事柄交流する機会の多い美術家と職人の違いということをその交流の中で感じたり、考えたりしてきた。足立さんは代々続く寺泊の曲物職人11代目。昔の日本の日常の道具で円筒形のものの多くは平らで薄い木材を曲げて端を留める「曲物(まげもの)」として作られていた。時代の流れで需要も変化したけれど、曲物を必要とする人々は今もいて、いつも忙しそうだ。 職人も美術家も、ものを作る点は同じだが、職人は作ることが「職」であり販売と直結している。注文があって作ることが基本である。美術家も作ることが職だが、注文で作ることがむしろ稀なもの作りと言えばいいだろうか。 足立さんとの出会いは曲物の技術で作った球体と花器の組み合わせた商品について、人を介して相談を受けたのが最初だった。砂丘館のイベントでいくどかそれを飾らせてもらったりした。 新しい商品開発の発想で生まれたらしいその曲輪の球体を、足立さんはその後、需要、注文に関係なく次々と作り始めた。いろんな場所にそれらを置いてみると、新しいなにかが見えてきたらしい。一つではなく二つ、三つ、もっとたくさん。球体が数を増すごとにまた違った景色が見えてきて、作ることのアクセルがその都度ふまれていったような印象で、今回の砂丘館の展示ではいったいいくつあるか分からない大小の球体たちが、異次元からやってきた生き物のように家中を闊歩する。 ほとんど現代アートのインスタレーションと変わらないのだが、職人である足立さんの足は、あくまで代々受け継いできた曲物の技術に置かれている。そこが美術家と足立さんの違いであり、これらの丸い異次元生物たちは、曲物という昔ながらの美しい実用品の世界へ、見る私たちを誘っているのだ。 (砂丘館館長) 写真 渡部佳則